ピュシス徒然草
サークルBiasCrashersのピュシスが徒然なるままに書き繕う種々雑多な謎の手記。 サークル活動情報、他愛ない話題、音楽、読書記録等々。
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今日の名文001
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瞳の動かぬ気高い顔して、恍惚(うっとり)と見詰めながら、よろよろと引退(ひきさが)る、と黒髪うつる藤紫、肩も腕(かいな)も嬌娜(なよやか)ながら、袖に構えた扇の利剣、霜夜に声も凜々(りんりん)と、
「……引上げたまえと約束し、一つの利剣を抜持って……」
 肩に綾(あや)なす鼓の手影、雲井の胴に光さし、艶(つや)が添って、名誉が籠(こ)めた心の花に、調(しらべ)の緒の色、颯(さっ)と燃え、ヤオ、と一つ声が懸(かか)る。
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泉鏡花「歌行燈」

新コーナー、というわけでもないですが。

岩波文庫版の解説では違うところが取り上げられていましたが、私はこの流麗かつ鋭敏な筆致が好き。
十年経っても覚えてましたよ、このくだり。




以下オマケ。
というにはあまりにもこれまた名文。
もう十年も前、初読時には分からなかったが……

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「いえ、私はな、やっぱりお伊勢なんですけれど、父(おとっ)さんが死(な)くなりましてから、継母(ままはは)に売られて行きましたの。はじめに聞いた奉公とは嘘のように違います。――お客の言うことを聞かぬ言うて、陸(おか)で悪くば海で稼げって、崕(がけ)の下の船着(ふなつき)から、夜になると、男衆に捉(つかま)えられて、小船に積まれて海へ出て、月があっても、島の蔭の暗い処を、危いなあ、ひやひやする、木の葉のように浮いて歩行(ある)いて、寂(しん)とした海の上で……悲しい唄を唄います。そしてお客の取れぬ時は、船頭衆の胸に響いて、女が恋しゅうなる禁厭(まじない)じゃ、お茶挽(ちゃひ)いた罰、と云って、船から海へ、びしゃびしゃと追下ろして、汐(しお)の干た巌(いわ)へ上げて、巌の裂目へ俯向(うつむ)けに口をつけさして、(こいし、こいし。)と呼ばせます。若い衆は舳(へさき)に待ってて、声が切れると、栄螺(さざえ)の殻をぴしぴしと打着(ぶッつ)けますの。汐風が濡れて吹く、夏の夜でも寒いもの。……私のそれは、師走から、寒の中(うち)で、八百八島(やしま)あると言う、どの島も皆白い。霜風が凍りついた、巌の角は針のような、あの、その上で、(こいし、こいし。)って、唇の、しびれるばかり泣いている。咽喉(のど)は裂け、舌は凍って、潮(しお)を浴びた裙(すそ)から冷え通って、正体がなくなる処を、貝殻で引掻(ひっか)かれて、やっと船で正気が付くのは、灯(あかり)もない、何の船やら、あの、まあ、鬼の支(つ)いた棒見るような帆柱の下から、皮の硬(こわ)い大(おおき)な手が出て、引掴(ひッつか)んで抱込みます。
 空には蒼(あお)い星ばかり、海の水は皆黒い。暗(やみ)の夜の血の池に落ちたようで、ああ、生きているか……千鳥も鳴く、私も泣く。……お恥かしゅうござんす。」
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